ポートレイトポートレイト イギリスのカントリーハウスやタウンハウスには肖像画がいっぱい
2025.01.23
イギリスのカントリーハウス-貴族たちの邸宅では肖像画がたくさん飾られています。イギリスの人たちは自分たちのルーツを大切にし、当時の当主たちの肖像画で広間の壁を埋め尽くしています。
例えばイギリス王室に嫁いだダイアナ元皇太子妃のご実家は、スペンサー伯爵の領地オルソープにあります。そのオルソープハウスの重厚な階段があるサロンと呼ばれているスペースを写真で見たことがあるのですが、階段の踊り場の壁、1階と2階の廊下、吹き抜けになっている暖炉の壁の上まで、たくさんの肖像画が掛けられている内装は壮観でした。
では最初に、そんな身分ある人たちが住まわれるカントリーハウスとタウンハウスからご紹介していきましょう。
イギリスの邸宅って??? カントリーハウスとタウンハウスの違い
カントリーハウスは貴族やその土地を統治している場所にある邸宅のこと。その場所がその人たちの本拠地であり、田舎の意味が確かにカントリーハウスには含まれていますが、その所領地が彼らのアイデンティティであり、財産にもなっています。身分のある者たちは責務を負うため、上院議員として終身に任期を務めます。爵位を持つ者が任命され、有識者や功労者が一代限りで貴族と認定される場合もあります。
議会開催中や社交シーズン中、身分のある人たちはロンドンに構えた家、タウンハウスに居を移します。春から夏にかけてのザ・シーズンと呼ばれるその時期は、ロンドンでの社交の時間。5月のチェルシーフラワーショー、6月のロイヤルアスコット競馬やヘンリー・ロイヤル・レガッタなどが行われ、社交界デビューする子女たちも現れます。7月には君主をお迎えしてイギリス議会の開会が宣言されます。イギリス議会は新しい会期になり、意外とロンドンでのタウンハウスの生活も長いようです。
それでも8月12日になるとザ・シーズンはお仕舞い。狩猟が解禁されるこの日に、それぞれの所領地に戻って狩猟や狩りに興じることが始まります。身分の高い人紳士たちの楽しみは狩猟と狩り、そして釣り。所領地での自然の中で、鳥を撃ち、鹿やキツネ、ウサギを追いかけ、魚を釣るのです。ただしキツネ狩りは2004年に禁止されました。
※写真はノーサンバーランド州にあるグレイ伯爵のカントリーハウスのホーウィックハウスと、ロンドンのグリーンパーク横のスペンサー伯爵のタウンハウスのスペンサーハウス。
肖像画家たちの活躍
かつて画家たちは教会で画を描き、教会に雇われていました。自分たちが好きな主題で画を描くことはなく、聖書の世界を画に表現して人々に知らしめていました。イエス・キリストと聖母マリアの姿を描き人々への福音に励んでいます。けれどイギリスではヘンリー8世の再婚をきっかけにローマカトリック教会との袂を分かちます。そのため今まであった聖像や宗教画はなきものにされてしまいました。
画家たちの仕事はなくなりますが、ヘンリー8世に仕える画家たちが現れます。宮廷画家として王室の人々や著名な人たちの肖像を残すことになりました。活躍した画家たちの古くは、ドイツ人のハンス·ホルバインやフランドル出身のアンソニー・ヴァン・ダイクとニコラス・ヒリアード、イギリスを代表する画家になったウィリアム・ホガース、ジュシュア・レイノルズ、トマス・ゲインズバラ、カラリストとして名を馳せたトマス・ロレンスと続いていきます。ヘンリー8世の肖像画を残したホルバインは宮廷画家となり、ヘンリー8世の3人目の后ジェーン・シーモアも描いています。ヴァン・ダイク、レイノルズ、ロレンスも宮廷画家としてその職務に就きました。
一時期流行った風景画で一度は肖像画も減ったようですが、イギリス人ではないがイギリスを拠点にしている画家たちが活躍し始めます。アメリカ人のジェームズ・アボット・マクニール・ホイッスラー、ジョン·シンガー·サージェントらが人気を博し、肖像画は復活します。元々ホルバインたちもそうでしたから歴史はくり返されているのです。
さらに時代は20世紀になるとまた変わった画家を見つけてしまいます。依頼された人物ではなく、自分が描きたい人物しか描かないという珍しい画家、オーガスタス・ジョン。ウエールズのデンビー出身のジョンが描いた、あるレディのその顔つきが目に焼きついてしまいます。その目つきとその半ば開いた唇から、どんな言葉が発せられるのか、とても興味深い肖像画でした。
※写真はナショナルポートレイトギャラリーで見つけたヘンリー8世の息子で早世したエドワード6世、ウィリアム3世と夫婦で即位したメアリ2世とその妹の次の君主になったアン女王。
ロンドンにある肖像画専門の美術館
ロンドンをー訪れる観光客のほとんどが訪れる大英博物館、ナショナルギャラリー。でもそのナショナルギャラリーの裏手に肖像画だけをコレクションした美術館があります。ナショナルポートレイトギャラリーはイギリスの君主たちだけではなく、たくさんの人たちのポートレイトで埋め尽くされています。
その王室や貴顕な人々たちの肖像を記録として残すことを始めた結果、膨大なコレクションができます。邸宅に飾られている肖像画の他に、こんなにもたくさんの人たちの肖像画があることに驚かされます。それも画です。唯一無二の絵画もたくさんあります。ポートレイトギャラリーのコレクションの展示は、有名な君主の肖像もありますが、芸術性の高い画家より人物優先で選んでいるそうです。
そのポートレイトのコレクションは195000点もあり、実は見たい人物だけではないのです。探せない人物の肖像はオンラインショップで購入したりもしていました。今では肖像画よりも写真が多いようですが、人物の画だけでこんなに収集するイギリス人のマニアックな発想はとてもユニークで、とても好きです。
ナショナルポートレイトギャラリーは2020年に一旦閉鎖され、2023年6月に新たにオープンしました。新しいナショナルポートレイトギャラリーのオープンに合わせて日程を決めロンドンに向かいましたが、館内はとても混んでいました。以前のようなひと気の少ないナショナルポートレイトギャラリーが少し懐かしくなってしまいます。