Willow Bough~From the United Kingdom

2024.08.20

英国コラム
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ウィロー、あまり聞きなれない英語ですが、これは植物の名です。工芸家・意匠家でもあるウィリアム・モリスが残した名作「ウィローボウ―柳の枝」。今でもイギリスの家の壁紙、また日本の生活の中にも溶け込んでいるデザインになりました。

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柳の葉が踊るように並んでいます。軽やかに風すらも感じる葉の模様。モリスはケルムスコットマナーのテムズ河で柳に目を留めたそうです。日本人は柳をそのままに垂らして描きますが、モリスの柳は空に向かっています。柳の葉の1枚1枚が何か話しているようにも見えてきます。葉脈の濃淡と穏やかな曲線が斬新です。今では壁紙や生地など緑だけではなく、青や赤、モノトーンのモノもあるようですが、やはり定番の緑が素敵です。

ウィリアム・モリスは最初聖職者になるために神学を学びます。在学していたオックスフォード大学で中世の建築物に魅かれ、やがて芸術の世界へと方向を変えていきます。画家ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティに師事し、大学卒業後は建築事務所で見習いとして働き始めます。その仕事は建築製図。緻密な画を描くことは培われていたようです。

モリスが唯一残した油彩画は1858年に描かれた1枚で、妻となるジェーン・バーデンをモデルにしています。建築事務所をやめてロセッティらとともに行動している頃に、オックスフォートの壁画制作でジェーンと出会い、恋をしてしまったモリス。でも残された油彩画は無表情で、動きのないジェーンの姿です。その恋は結婚まで進みましたが、モリスは自分の画力に限界を感じてしまいます。画を描くことをやめ、壁紙のパターンのデザインに注力し始めます。

モリスのそのデザインの力で1864年にはまだ素朴なパターンの「トレリス」と「ひなぎく」、1876年には「るりはこべ」、1883年には「いちご泥棒」を創り出していきます。「柳の枝」は1887年の作品です。柳の動きを活かしたこのデザインは、日本でもイギリスのファブリックの柄として、カーテンやテーブルクロス、クッションカバーなどとして今もたくさん出回っています。なぜか飽きのこない「柳の枝」のデザイン。部屋に自然と馴染んでしまうのがとても不思議です。これが素晴らしい意匠と呼べるものなのでしょう。モリスのデザインは100年200年と、時代に残り続ける美しさを持っています。