Dido Elizabeth Belle~From the United Kingdom
2025.02.14
ロンドンの北のハムステッドヒースの丘の上にある、白亜のケンウッドハウスに不思議な肖像画がかつて飾られていました。美しいレディが開いた本を膝に置き、少し後ろに立つ黒人女性の肘にやさしく手を添えています。黒人女性もフルーツを抱えて笑顔を見せています。最初はご令嬢とおつきの女性に見えてしまったのですが、黒人女性の装飾品や着ているドレスが高価なことに気づきます。
黒人女性の名はダイド・エリザベス・ベル。ダイドも羽のついたターバンを被り、真珠のネックレスと大きなイヤリングを身につけています。彼女は黒人女性として、初めて貴族の娘として育てられました。ダイドの母親は西インド諸島で奴隷にされたマリア・ベル。マリアの美しさに魅かれたサー・ジョン・リンゼイとの間に生まれたのがダイトです。4才で父親に連れられてイギリスのマンスフィールド伯爵の家、ケンウッドハウスにやって来ます。そこには同じ母親のいない境遇の従姉妹のエリザベス・マレーがいて、貴族の娘としての養育を受けることになります。肖像画は2人が15才と16才頃のもの。けれど婚外子で黒人女性のダイトと、エリザベスの育てられ方はちょっと違ったようです。
娘たちの後見人はマンスフィールド伯爵。伯爵夫妻には子がなかったので、2人は姉妹のように育てられましたが、ゲストとの会食や舞踏会にダイドは呼ばれません。しかしマンスフィールド伯爵はダイドにも愛情を注ぎ、多くの年金も残します。伯爵は婚外子でも黒人女性でも正当な財産分与をしました。この2人のお話は2013年の映画、「ベル-ある伯爵令嬢の恋」にもなりました。映画ではエリザベスが恋するアッシュフォード卿の長男がとても邪悪な役なのですが、どこかで見たことがあるな~と考えていたら… 映画ハリー・ポッターシリーズのドラコ・マルフォイ役のトム・フェルトンでした。金髪ではなかったのですぐにわかりませんでしたが、意地悪な役は最高でした。ただ映画はあくまでも映画なので、事実とは異なるように思います。
ダイドの夫はフランス人で家令―house stewardという、上級使用人の仕事に就いていたようです。ダイドより7才下でしたが、3人の息子たちに恵まれセントラルロンドンのピムリコで暮らしていました。ダイドにはマンスフィールド伯爵からの年金もあり、十分な生活が送れたに違いありません。ただその生涯は短く、1804年に43才でダイドは亡くなります。
今でもダイドの姿はエリザベスとの肖像画で観ることができます。2人の肖像画はスコットランドのスクーンパレスに今は移され、飾られています。若きダイドとエリザベスの仲睦まじい一瞬が伺える1枚です。
※写真は育ったハムステッドヒースのケンウッドハウスと、結婚後ダイドが移り住んだロンドンのピムリコの大通りです。