Sarah Jennings~From the United Kingdom

2024.09.27

英国史雑学

2018年公開の映画「女王陛下のお気に入り」でエマ・ストーン演じるアビゲイル・メイシャムと、熾烈な女の戦いを続けたサラ・ジェニングス。もちろん実在の人物です。王室に務める女性たちは貴族の夫人たちが多く、サラもジェントリー出身で後のマールバラ公爵夫人となります。

サラ・ジェニングスのジェニングスは旧姓。13才でサラはイングランド王ジェイムス2世の後添い、メアリー・オブ・モデナの侍女として宮廷に入ります。後のアン女王とはそれから2年ほどして親しくなったようです。アンが10才、サラが15才の頃からの長いつきあいになります。間もなくサラは初代マールバラ公ジョン・チャーチルの妻となり、サラ・チャーチルとなりました。18才で娘の出産のため宮廷を辞しますが、娘は早世してしまいます。

1683年にアンが結婚すると寝室女官に指名され、サラはまた近い間柄となります。けれどまだアンは女王ではありません。ジェイムス2世が名誉革命で亡命し、アンの姉のメアリー2世が夫のウィリアム3世とともに共同君主の座に就きその後に君主となるのですが、まだ先のこと。ウィリアム3世が没し、アンが女王の座に就くのは1702年、37才の時です。映画「女王陛下のお気に入り」は、その後を物語っていたようです。映画ではサラとアビゲイルとえげつなく闘っていましたが、ほんとうにそうだったのでしょうか。権力を持つ者のそばに就くと、高貴な立場にあっても、美しく着飾っていても、思惑にはどろどろしたものがうごめいてしまうものなのでしょう。

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ケンジントンパレスで見つけたサラの肖像、それは結構大胆なポーズです。背もたれのある椅子に寄りかかり右手を頬に当て、左手は何かを受け取るように前に上げています。胸元が見える赤いドレス、視線は画家に真っ直ぐに向かっています。その目つきは何か挑発しているようにも思えます。ケンジントンパレスの2階にある部屋で見つけた肖像画は、薄暗い照明の中でも異彩を放つ1枚です。サラの肖像画の前に楚々とした伯爵夫人を観ていたので、その落差に驚きました。肖像画が描かれたのは1700年頃のことで、アイルランドの肖像画家のチャールズ・ジャーバスによって仕上げられました。タイトルは「マールバラ公爵夫人サラ」。

アンが女王になってからサラは1711年まで宮廷で務めます。それから数年した1714年8月1日、アン女王はケンジントンパレスで崩御されます。その死因は脳卒中。アン女王は12年147日の君主の時間を、サラとは9年あまり、アビゲイルとは3年あまりを過ごしたことになります。マールバラ公爵夫人サラはその後も生き続け、1744年10月18日に84才の長命で亡くなりました。サラは先に亡くなった夫のそばで永遠の眠りに就いています。