Corridor at Red House~From the United Kingdom

2024.05.11

英国史雑学

ロンドンの南にあるベクスリーヒース、そこは今閑静な住宅街です。今から165年以上昔、この辺りに何もなかったと思われる時代にロンドンからベクスリーヒースに移り住んだ人、その人は意匠家・工芸家のウィリアム・モリス。モリスが新婚時代を過ごしたレッドハウスが、ロンドン郊外のベクスリーヒースにあります。

レッドハウスのコリドーを今回はご紹介しましょう。コリドーはイギリス英語で廊下のこと。アメリカでは廊下をホールウェイと呼ぶようです。

  • Corridor at Red House~From the United Kingdom

モリスが新婚時代を過ごすためのレッドハウス。この設計を請け負ったのは若き建築家フィリップ・ウェッブです。建築事務所に出入りしていたモリスとウェッブの出会いがあって、このベクスリーヒースへやって来ることになりました。暮らしやすく、美しいものと思える家造りをしたい、理想を追い求めるモリスは、ウェッブの設計でベクスリーヒースの緑に囲まれた敷地にL字の家を造り上げます。玄関を入って右にダイニングルーム、左にシッティンルーム―イギリス英語のリビングルーム―がイギリスで1階を称するグランドフロアにあります。左へ進むとコリドーへ、高い窓からはまばゆい光が届いています。

このコリドーにはモリスたちが造り上げた椅子たちが並べられています。これらの椅子はサセックスチェアと呼ばれ、軽く使い心地の好いチェアとして、ヴイクトリア時代に人気を博しました。モリスが提唱したアーツ&クラフツの代表的なデザインのチェアとして、今もリプロダクションのものが造られています。座面のラッシ-藺草の座り心地もなかなかですが、イギリスでは座ったことがありません。軽井沢の通っているお蕎麦屋さんにかつてあった椅子が同じラッシの座面でした。モリスたちのアーツ&クラフツの運動は、日本の民芸運動にも波及しています。松本民芸家具のラッシチェアは憧れです。使う毎にラッシの色が飴色になり風格を増していきます。でもかなりお高いもので、そのお蕎麦屋さんも布張りに変えてしまっています。

  • Corridor at Red House~From the United Kingdom
  • Corridor at Red Housen~From the United Kingdom

さてレッドハウスのコリドーに並ぶ椅子たち。その前には高い窓があります。椅子に座るとちょうど窓を眺めることができます。丹精したガーデンの植物たちが窓に絡んで一枚の額絵のようです。一番奥にはステンドグラスの窓。後で知ったのですが、このステンドグラスはモリスの作、「運命」だそう。目隠しをした女神は車輪を胸に抱いています。時の車輪を抱いていても、先がわからない、象徴的なステンドグラスの作品です。背景には今の時間を生きる緑の草木たち。かつてここで暮らしていた人たちはとうの昔にいないのに、たくさんの草木たちはまだここで暮らしています。

コリドーを抜けるとまばゆい陽光の庭へ出ます。庭の美しさも秀逸です。モリスが愛したのは生活の中にあるレッサーアート―小芸術でしたが、この庭もこよなく愛していたことでしょう。庭へと抜ける扉の先には、モリス作のタイルを背面に埋め込んだベンチがあり、モリス自身ここを「巡礼者の休息所」と名づけていたそうです。理想を追い求めてモノづくりに励んだモリスが、華やぐ庭を見ながら休んでいる若き姿が見えてきそうです。

※モリス作と知っていればもっと丁寧な写真を撮ってきたかったと後悔しきりです。本物を見にぜひ一度はレッドハウスへお出かけください。ロンドンから1時間ほどのベクスリーヒースにその家はあります。