Pantomime~From the United Kingdom
2022.07.28
2022年シェーンは創業45年を迎えました。創業者はイベントが大好きで今から20年前の創業25年のイベントとして、夏に英語でパントマイムの劇を開演したいとリクエストしてきます。私たちスタッフはパントマイムって、言葉を使わないものと思っていたので、さあ何をするのかそこから模索が始まります。さてイギリスのパントマイムとはどんなものなのでしょうか。
イギリスのパントマイムとは
イギリスのパントマイムは子ども向けの劇、台詞のない無言劇ではありません。「赤ずきんちゃん」や「長靴をはいた猫」、「アラジンと魔法のランプ」など、みんながよく知っている童話をベースにしたお話を歌や音楽といっしょに演じます。子どもたちはもちろん大人も十分楽しめるパントマイムは長い歴史を持ち、イギリスではクリスマスシーズンの11月下旬からパントマイムの公演が行われているそうです。
パントマイムは勧善懲悪が基本、主人公はあくまで賢く、悪役はあくまで憎らしく演じます。また、パントマイムにはいくつかのお約束があります。一番の特徴は客席との掛け合いがあること。客席の子どもたちは黙って劇を見ているわけにはいきません。キャラクターの呼びかけに応じたり、危険が迫っていることを教えたり、悪いキャラクターが登場したらブーイングをしたり積極的に劇に参加できるように作られています。
舞台の経験など持ち合わせないシェーンの講師たちとスタッフたちで、パントマイムの舞台なんてできるものではありません。そしてイギリスから俳優たちを呼ぶ準備を始めます。私的な旅行でイギリスを訪れていたシェーンのスタッフが、ロンドン在住の俳優ふたりを紹介してもらい、彼らに舞台を頼むことに決まりました。そして舞台には音響、照明、それを統括する舞台監督も必要です。こちらも知り合いを紹介してもらうことにし、舞台の準備が始まります。
創業25周年の2002年のキッズドラマは「Little Red Riding Hood」
2002年のキッズドラマは「Little Red Riding Hood(赤ずきんちゃん)」に決まります。みんなが知っているお話で、3人の俳優でキャストを演じることができます。でも舞台にはいろいろな仕かけがありました。舞台で使う大がかりな大道具は、舞台関係者に製作を依頼し、シェーンのスタッフたちは小道具を手配することになりました。
舞台ができあがるまでのエピソード
まずは舞台の大道具と小道具の手配から。ロンドン在住の俳優たちとやりとりしながら、舞台関係者を紹介してもらい、大道具の製作を依頼します。小道具は社内で何とか調達することにし、でも製作仕様に書かれている2メートル四方の黒い布、そして白いドットは直径20センチとあり、???と疑問符が続きます。それでも白いドットはフェルトで作ることにし、型紙を起こします。どうやらこれはベッドカバーになるようです。そうやって製作仕様を1つずつクリアにしながら、テーブルクロスを作り、バスケット、テディベアなどを購入したりパントマイムの舞台の準備は進みます。そして7月1日に俳優たちが来日します。スタッフは空港へ出迎えと、滞在するアパートの準備に分かれます。俳優たちのために手配したアパートにはベッド、テーブルなどの家具や、電子レンジ、冷蔵庫や洗濯機などは付いています。その日は今日明日分の簡単な食材、ハムや卵、パン、牛乳を買い出し、シャンプーとコンディショナー、ポディソーブ、ロールペーパー、ティッシュなどの生活用品を用意します。シャンプーなどはshampooと英語表記のものがなかなかなく、探すのに苦労した覚えがあります。そして洗濯機も全部日本語。1、2、3と手順のシールを作り、startシールを貼ります。やがて俳優たちが到着。キス&ハグで挨拶し、この夏の2カ月にわたるつきあいが始まります。
「赤ずきんちゃん」の舞台の見所
稽古場の再手配や、大道具の仕上がりの確認を経て舞台初日を迎えます。最初に3人は子どものきょうだいに扮し、パジャマ姿で登場します。ベッドの前でダンスをしながら、一番上のお兄さんに「赤ずきんちゃん」の絵本を読んでもらい、物語の世界へ誘います。ベッドはその後、扉や森の木を立て掛ける装置にもなります。そして3人の役柄に合わせて早変わりで着替えます。不自然にならないよう、一番上のお兄さんが絵本を読んでいる間に舞台が暗転し、役柄が変わります。赤ずきんちゃんの登場に、観客席の子どもたちも目を輝かせます。そしてパントマイムが始まります。Do you like ice cream?と赤ずきんちゃんが観客席に呼びかけ、その答えを待ちます。Yes, I doと子どもたちは答えます。次はDo you like cockroaches? もちろんこれはみんなで嫌いです。No I don't. パントマイムのやりとりは少し歌うように、チャンツ(リズムに乗せて英語を発話)を取り入れて続けます。英語の音と、カードに描かれているアイスクリームやコックローチの画で、誰にでもわかるように舞台は進んでいきます。また急きょ選んだ子どもたち舞台にを上げて、Bring me 3 applesなどと英語で指示しながら、子どもたちを舞台に参加させたりもしています。
また舞台では赤ずきんちゃんだけのお話ではなく、ウサギとカメのキャラクターも登場します。3人の俳優で何役もこなし、そしてオオカミに追われる赤ずきんちゃんが観客席に走り、オオカミも観客席に降りて追いかけます。舞台では裏方のスタッフが次のシーンの用意をしています。観客席にライトを当てている間に、舞台が変わっている仕かけです。舞台と俳優たちの早変わりで45分ほどの劇が終了します。
耳に残る英語のセリフ
Don’t stop, stay on the path.立ち止まらないで、その道にいて。
この英語のセリフはくり返し流れます。ウサギもこのセリフを使います。でもカメがのんびり歩いているのを見て、ウサギは居眠りしてしまいます。別のお話でも同じ英語のセリフを使い、耳に馴染ませていきます。子どもたちを舞台に引き込みながら、英語の世界へ誘います。舞台と同化することで子どもたちの興味を引き、ドラマの中のもりだくさんのアクティビティで、英語で脳がフル回転する効果をはかっています。
舞台の裏はどうなっているの??
3人のきょうだいがパジャマで登場することから始まり、赤ずきんちゃんとおばあちゃん、赤ずきんちゃん、ウサギとカメ、赤ずきんちゃんとオオカミ、おばあちゃんとオオカミ、赤ずきんちゃんとおばあちゃん、そして最後は3人のきょうだいに戻って「おやすみなさい」で舞台は終わります。舞台での早変わり、それは大道具の時計台の裏が俳優たちの着替えの場所となっていたのです。俳優たちが代わる代わる舞台で演じては、この中で着替えては舞台に登場していました。3人のきょうだいのベッドルームから、キッチン、森、そしてオオカミのお腹を切るシーンと、この大道具たちもフル回転で変わっていきます。ここには裏方のスタッフが必要です。特に赤ずきんちゃんとオオカミが観客席で追いかけっこをしている間に、舞台の大道具の配置を変えていかなければなりません。短い間に暗い舞台の上での作業は緊張を強いられます。それでもひとつの舞台を作り上げていくことは、3人の俳優、舞台関係者のスタッフ、私たちシェーンのスタッフの協力で成し得ることができました。2002年のパントマイムのキッズドラマは、私たちにとってかけがえのない夏の思い出になりました。
2003年のキッズドラマは「Ugly Duckling」
前回の「赤ずきんちゃん」は舞台装置の入れ替え等で裏方のスタッフも必要でした。2003年はシェーンのスタッフも舞台を観ることができるよう、3人の俳優で裏方もこなすように考えられてきました。キッズドラマは「Ugly Duckling(みにくいアヒルの子)が選ばれました。
舞台ができあがるまでのエピソード
2002年の反省を踏まえ、私たちも公演数を考えます。前回は昼夜2回公演が5回もあり、酷暑には堪える公演回数をこなしました。また搬入に階段を使う会場もあり、大道具のベッドや時計台を大人数で手運びすることもありました。古い市民会館など仕方がなかったのですが、今回は会場の吟味と、公演数を少し減らして開催することになりました。千葉から始まり、神奈川、埼玉、東京と全11か所の公演が組まれました。「みにくいアヒルの子」の舞台の見所
今回も3人の俳優は1人2役、3役を演じています。3人の郵便屋さんが卵を配達するのですが、1人が間違えて白鳥の卵をアヒルのところに入れていまいます。子どもたちも「違うよ」と舞台に声をかけますが、アヒルの2人のきょうだいは大きな卵から生まれた「みにくいアヒルの子」を見て大笑いします。そして仲間ハズレです。Can you swim? Can you quack?
みにくいアヒルの子は舞台から、そう子どもたちに呼びかけます。その悲し気な声にみにくいアヒルの子の孤独さを感じさせ、子どもたちも舞台に感情移入していきます。
旅に出たみにくいアヒルの子はいろいろな動物たちと出会い、最後は凍えているところを郵便屋さんたちに助けられます。でも氷の中からで出てきたアヒルの子はもう灰色ではありません。白い白鳥となって、郵便屋さんたちを驚かせます。そして大空を飛び立っていきます。
耳に残る英語のセリフ
You ‘re ugly, you’re gray. You can’t play with us today.あなたはみにくい、あなたは灰色。私たちは今日あなたとは遊びません。
何て意地悪なアヒルのきょうだいたちは、こうしてみにくいアヒルの子をいじめます。旅に出たみにくいアヒルの子は、エキセントリックなカラスの夫妻、農場の羊や馬たちにも同じように言われて、虐げられます。またカラス夫妻は上流階級、農場の羊と馬はコックニーの訛りまで使い、英語の音の違いも表現します。イギリスにも日本語と同じようにいろいろなアクセントがあります。ただ子どもたちにはちょっと難しかったかもしれません。
Yes, dear.
はい、君。
カラス夫妻の奥さまはダンナさまにいろいろと注文します。もっと冷たいの、もっと温かいのと、リクエストにカラスのダンナさまは右往左往。そのたびにこのYes, dear.と答えていました。元々の意味の「親愛なる」のdearとは違う、間投詞としてここでは使われています。Oh dearで「まあ」と、その言い方ひとつで驚きや悲しみなども表せます。
舞台の裏はどうなっているの??
今回は俳優たちだけで大道具の配置も変えることになっていたのですが、凍えたみにくいアヒルの子に、氷のカーテンを被せます。2人の俳優で舞台に弧を描くようにカーテンを下ろしてしたのですが、たった1回だけそれが途中で引っかかって下りなくなってしまいます。舞台の下手(向かって左)にいた私たちスタッフに、「Ten, ten」と1人の俳優が小声と手で合図します。「10秒待て」ではなく、それは「Track10」。すぐに気づいた音響のスタッフが10の音楽を流して事なきを得ます。ちょっとの中断で済みましたが、舞台は日々、いつも違う、でもそれが醍醐味でもあるようです。3人の俳優とは2年間の夏をいっしょに過ごしました。オフィスの机の上では得られないたくさんの経験をし、たくさんの日々を重ねることができました。思い出すエピソードは楽しいことばかりです。毎日同じように過ごしていても、同じ日はなく、特に舞台ではそのことを強く感じることができました。同じ演目、同じ台詞、同じ歌でも、間合いや呼吸が、どれも違います。同じことは二度と起こらないのです。そして2003年の夏は終わりました。
あの英語のキッズドラマから20年
2つの夏をイギリスから招いた俳優たちと、外部の舞台の関係者、シェーンのスタッフたちで全37公演を行いました。夏の2年間を過ごした私たちですが、あれから20年経っても、ロンドンの俳優たちとはソーシャルメディアでつながっています。またパンデミックになる寸前にはロンドンで再会し、また楽しい時間を過ごすことができました。英語の世界の舞台を通じて大切な経験をさせてもらいました。実はとても大変な思いもしましたが、今となっては暑い熱い厚い夏の思い出です。
あの時観客席で観ていらしたお子さまだった方は、もうすっかり大人になっていらっしゃいます。もしこのパンマイムのキッズドラマの記憶の欠片をお持ちであれば、またあれからずっと英語に触れていらしたら、私たちシェーンのスタッフも苦労してやった甲斐はありました。
※今回はシェーンのアーカイブスから十分考慮して画像を使用させていただきました。