Near Sawrey~From the United Kingdom

2022.03.18

異文化理解

一見読めない英語ですが、これはニアソーリー。でもこの名を聞いたことあります。そうそう、ピーターラビットの作家、ビアトリクス・ポターが暮らした場所でした。世界中で愛されているピーターラビット。作家ポターはロンドンの出身ですが、イギリスの湖水地方の小さな村、ニアソーリーに1905年に移り住みます。ポターは裕福な家庭に生まれ、子ども時代から夏の休暇はスコットランドで過ごす生活をしていました。別荘の契約問題で、スコットランドからイングランドの湖水地方に夏を過ごすことになったポター。少女時代に出会った湖水地方は、ポターの原風景になっていたのかもしれません。

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ビアトリクス・ポターはニアソーリーの村のあちこちに、ピーターラビットとその仲間たちを描きます。ピーターの家族はお母さんとお父さん、モプシー、カトンテール、フロプシーの妹たち。でもお父さんはマクレガーさんの奥さんにパイにされてしまったので、パイのカタチで登場しています。イギリスではゲームパイと呼ばれる、狩りで捕った鳥や動物たちをパイの中に入れて食べます。イギリスのゲームパイは甘くないパイで、うさぎのパイもイギリスのご馳走です。どうやらピーターのお父さんはパイにされてしまったようです。残酷なようですが、動物たちと人間はこうして共存してきたのです。

ビアトリクス・ポターはニアソーリー村に移り住んだのは、ポターの婚約者ノーマンの死別もありましたが、その前に飼っていたうさぎのビーターが9才で天寿全うしてしまったことが大きかったようです。長くロンドンの家にいたポターは、親の決めた人以外の結婚も働くこともさせてはもらえませんでした。裕福な家庭の子女は、働くために外に出てはいけなかったのです。それでも家庭教師の勧めもあって絵本を作り出版していたポターは、お金を得ていたのでニアソーリ―に家を買うことができました。うさぎのピーターの死でピーターラビットのお話はできつつありました。「ふたつあったパイのお話」はニアソーリーを描いた村の様子が描かれています。「ふたつあったパイのお話」は嫌いなものを食べたくがないために、自分で罠にかかった黒犬サンのお話。最初からそのパイを食べられないと言えばよかったのか、お茶のお誘いを断るか、罠を掛けたら注意深く様子をみたらよかったのか、本音を言えなかった黒犬のダッチェスと、お茶に招待したおしゃれな猫のリビーが、ニアソーリ―村の中でまるで住んでいるように描かれています。

美しく利発なビアトリクス・ポター。その画力はうわべだけではなく動物たちの骨格までにもこだわり、死んだ動物たちの解剖をもして確認していたと伝えられています。その観察力と度胸は並大抵のものではありません。ポターの絵はかわいいだけではないのです。動物たちのその動き、身体の作りまでも追及し描き出していたのです。晩年はニアソーリーの農場で働き、作品を発表することもなくなっていました。77才で逝去。その遺灰は牧場にまかれ、その場所は誰にも知られてはいません。

同じ場所で同じ風景で、ピーターラビットたちに出会えるニアソーリ―の村。ずっと変わらない風景に、私たちは引き寄せられて、この村を訪れ続けているのでしょう。ロンドンのユーストン駅から3時間、乗り換えてウィンダミア、湖からボート、そして歩いて1時間ほど。長い時間をかけて、変わらない風景に出会う。そんなゆっくりとしたイギリスの旅を愉しみたいものです。