“A penny for the Guy“ 秋の風物詩、ハロウィンとガイフォークス
2019.08.30
ハロウィンが近づき、子ども会でも恒例のパーティが開かれます。今年の仮装はどうしようと考えていると、「ママ、ハロウィンって何のお祭り?」と娘の声。「ハロウィンはね、ええと、あれ、確かアメリカの…。何だっけ?」
オレンジ色のかぼちゃに目や口をくりぬいたJack-o'-Lantern(ジャック・オー・ランタン)が店頭に並び、子どもたちや若者が趣向を凝らした仮装して、パーティやパレードを楽しむハロウィンはすっかり秋を代表するイベントになりました。Trick or Treat(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ)はお菓子をねだる子どもたちのおなじみの決め台詞です。
さて、ハロウィン起源はアイルランドなどで暮らしていた古代ケルト民族の風習、サーウィン祭に遡ります。
その昔、古代ケルトの新年は11月1日に始まりました。そして大晦日にあたる10月31日の夜には現世とあの世の扉が開き、先祖の霊が家族に会いに来ると考えられていました。それだけなら日本のお盆のようなものですが、困ったことに、同時に悪霊もやってくるというのです。そのため人々は魔よけの火を焚き、子どもたちは狙われないように、悪魔や悪霊の仲間のふり(仮装)をさせたと言われています。
時代は流れ、このケルト民族がキリスト教に改宗していく過程で、この風習は形を変えて受け継がれていきます。
カトリック教会では11月1日はAll Hallows Day(諸聖人の祝日/カトリックの全ての聖人に祈りをささげる日)としています。そして10月31日の夜はAll Hallows Eve、これがHalloween(ハロウィン)と変化したと考えられています。ただし、Halloween(ハロウィン)はクリスマスやイースターのような祝祭とは異なり、キリスト教会の公式行事として扱われることはありません。その後、アメリカに渡ったハロウィンは大衆文化として受け入れられ、現在の娯楽性の高いお祭りとなりました。
余談ですが、日本語でハロウィンと言うときは「ハ」にアクセントがありますが、英語では後ろにアクセントを置いてハロウィーンと発音します。
ハロウィンのシンボルと言えば、「かぼちゃ」をくり抜いて作る、怖い顔をしたJack-o'-Lantern(ジャック・オー・ランタン)。アイルランドに伝わるジャックと悪魔の民話がベースです。
乱暴者で嘘つきなJackは死んでも天国に行くことはできませんでした。それどころか、生前に悪魔さえ騙したせいで、地獄にも入れてもらえなかったのだとか。悪魔に懇願してどうにか分けてもらった火を「蕪」をくりぬいて作ってランタンに灯し、今でも暗闇の中を彷徨っているというかなり怖いお話です。
かぼちゃでランタンを作るようになったのはアメリカに伝わった後のこと、怖い顔に作るのは魔よけの意味があるそうです。そんな恐ろしい由来を持つかぼちゃランタンも、今ではハロウィンには欠かせない楽しいデコレーションになりましたね。
さて、日本では、テーマパークのイベントや商業施設のプロモーションにより、すっかり定着したハロウィンですが、イギリスでは1990年後半に、アメリカから逆輸入された形で、多くの人に楽しまれるようになったと言われています。とはいえ、アメリカほど盛んに行われていない印象もあります。それは何故か。実はイギリスにはもう一つ、大々的に行われる初冬の風物詩があるのです。
11月の声を聞く頃、イギリスではサマータイムが終わりを告げ、12月の冬至に向けて日ごと昼の時間が短くなり、本格的な冬を迎えます。そんな初冬のお楽しみは11月5日の Guy Fawkes Night それとも Bonfire Night。テムズ川沿いの大規模な花火大会から、公園や家庭のこぢんまりとした花火遊びまで、11月5日の夜は咲き競う光の花で彩られます。
花火は夏の風物詩とインプットされている日本人には不思議な感がありますが、緯度の高いイギリスでは、夏になると22時ごろまでほんのり明るく、子どもたちは起きて暗くなるのを待つことができません。大人たちも、夜が長い冬にこそ、夜空を華やかにして楽しみたいという気持ちになるのでしょう。
Guy Fawkes Dayの由来は、歴史的に有名なThe Gunpowder Plot(火薬陰謀事件)。1605年11月5日、Guy Fawkesらが国会議事堂に火薬を仕掛けて国王の暗殺を謀ったものの、密告により事前に発覚、一味は逮捕、処刑されました。以来、国王の無事を喜び、陰謀が未遂に終わった11月5日を記念して、盛大に花火をあげて祝うようになりました。
そんなきな臭い背景を持つGuy Fawkes Dayですが、今日ではその由来の意味は薄れ、日の短くなった秋の夜をBonfire(焚き火)と花火で楽しむ行事として今日も続いています。
かつて、子どもたちは藁やぼろで人形を作り、ガイに見立てて街を引き回し、A penny for the Guy(ガイに1ペニーちょうだい)と大人たちにねだってまわったものです。Trick or Treatを思い起こさせる遊びですね。そうして引き回されたGuyの人形は大きな焚火の中に投げ込まれ祭りはクライマックスを迎えました。今でも、イースト・サセックス州Lewesなどでは昔ながらの祭典が行われているそうです。
寒い花火の夜には欠かせないのが、mulled wine。温かいワインを飲みながら、夜空を見上げるのが、この日の過ごし方です。ホットワインは和製英語なので、残念ですが通じません。
花火が終わり、焚火が消え、Bonfire Nightが終わりを告げます。この行事を境に、北国イギリスは日一日と冬の色を深めていきます。もうクリスマスはjust around the corner、すぐそこです。